鼓童 中込健太さんインタビュー

向かって右が中込健太さん

2011年5月21日 山梨県甲府市にある山梨県民文化ホールにて、和太鼓集団『鼓童』によるワン・アース・ツアーが行われました。観客席では山梨県民のみならず、外国人の方も多く見かけました。幕が揚がると、会場はわくわくするような独特の緊張感に包まれました。太鼓の音は波動となって、観客の内側を振動させます。音を一つにする集中力、全てを解き放つかのようなエネルギーの放出。一切の無駄の無い鍛え抜かれた肉体が打ち放つ音の一つ一つは、まるで神へと捧げられているかのようで、崇高な高揚感を感じました。シンプルな太鼓だからこそ、そこには一切のごまかしがありません。何の説明も知識も要らず、ストレートに理解できる。だから国も性別も年齢も関係なく人々を魅了します。

今回は鼓童メンバーの若手ホープ中込健太さんと、マネージャーの後藤美奈子さんに、公演前のお忙しい中、お時間を頂いてお話を伺いました。まっすぐ目を見て、一つ一つの質問に真摯に答えて下さった健太さん。短い時間でも、ひたむきで誠実なお人柄が伝わってきました。強烈なオーラを放つ舞台の上とは違う魅力を見せて下さいました。

中込健太さんプロフィールこちら

【インタビュー】

…………久しぶりの山梨はいかがですか?

中込さん:やはり懐かしいですね。昨夜、中央道で走って来たんですけど、子供の頃見た夜景を思い出して、とても嬉しかったです。

…………中込さんにとっての、太鼓の魅力って何ですか?

中込さん:そうですね、なにも考えずに思い切りたたけるっていうことでしょうか。

…………それは、無心になるってことですか?

中込さん:はい、無心になりますね。太鼓の魅力の一つだと思いますね。

…………中込さんは、肉体がすごく芸術的ですよね。ボディービルダーみたいな人とは違う自然な感じですが…。あれはやっぱりトレーニングされてるんですか?

中込さん:いえ、とにかく太鼓を打ち込んでついた筋肉です。

…………そうなんですか。肉体を作るためのトレーニングはしないんですね。

後藤さん:鼓童では筋トレはしないですね。中込は、たぶん鼓童の中でもかなり芸術的な筋肉だと思います(笑)。よけいな肉がないというか…。

…………写真などで筋肉の陰影を見ると本当にすごいですよね。じゃあ太鼓をたたき続けるだけで、ああいう体に…

中込さん:そうですね、走ることもしますけど、それは、コンディショニングの意味合いが大きいです。

…………佐渡ではどんな暮らしをしているのですか?自然に囲まれた中で生活されているんですか?

中込さん:はい。佐渡の、小木の港から車で10分くらいのところに「鼓童村」という僕らが住んでる施設があります。山というか、少し谷あいの感じのところです。

後藤さん:太鼓は音が大きいので、1日中稽古をしますから周りに民家があると、ご迷惑をおかけするので…。町から離れたところに、稽古場と事務所と独身寮などがあります。歩いて行ける所にお店は無いですね(笑)。一番近いコンビニでも車で15分ぐらいかかります。食事当番なども自分たちで当番を決めてまわしますよ。

…………そういう生活って、ちょっと特殊ですけど、その中で何か感動したこととかってありますか?

中込さん:季節感というか、四季を感じられるのがいいなと思っています。鼓童には研修所があって、入って2年間は廃校になった学校の教室を仕切って、研修生活を送ります。そこでは自分の部屋には冷暖房が無いんです。夏は暑いし、冬は隙間風も入ってきて、すごく寒いんです。研修所時代は冬が本当に嫌でした。廊下も冷たいし、しもやけになるし…。でも、冬の厳しさを感じた後で、春が来たときに、こんな嬉しいんだって言うのは、すごく感動しました。

…………鼓童に入ってから今までで、大変だったことと、すごく嬉しかったことを教えていただけますか?

中込さん:そうですね、自分は高校卒業してすぐ研修所に入ったので、共同生活がすごく大変でした。でも、共同生活することの良さや大切さみたいなものがだんだんわかってきて…。相手の気持ちを考えたりとか、気遣いとか、そういうことが、すごく自分のためになったと思っています。そして、そういうことが舞台に繋がっているんだな、と。それがわかったことが嬉しかったことですね。いい勉強したなぁと思います。

…………鼓童は日本文化の魅力を世界に広める役割も果たされていますよね。海外のファンとの交流の中で、印象に残っていることなどありますか?

後藤さん:日本国内どんな公演地にうかがっても、外国人のお客様が見に来てくださいますね。北米、ヨーロッパ各国は隔年でうかがっていますし。国によってお客様の反応が違うのも面白いですね。

…………もう、何ヶ国ぐらい行ってるんですか?

後藤さん:鼓童全体では46カ国行ってますけど、健太でどれぐらい行ってるんだろう?

中込さん:十数ヶ国ぐらい?(※18ヶ国くらいのようです) 国や地域によって、人の感じや暮らし、習慣が違うので、それを見るのは本当に面白いです。そこでいろんな人と知り合いになって、また何年後かに会えたりすると、すごく嬉しいですね。

…………中込さんご自身は、今後、どんな活動を目指していかれますか?

中込さん:鼓童も結成30年で、今いろんな世代のメンバーがいます。一番最初に始めた先輩たちは、30年以上続けているわけで、その中では自分はまだ入ったばかり。先輩たちからも学ばなくてはいけないです。これからどういう風にしていきたいか、と聞かれたら、自分と同世代や、もっと若い人たちに、鼓童の演奏や活動をアピールしていきたいです。そうすることでいろいろな活動の幅がもっと広がっていくのかなと思います。

…………後藤さんから見た、中込さんの魅力は何ですか?

後藤さん:若いですが、いい男ですね。(笑)素直でまじめですし、勉強家だし。太鼓の音も素直だと思います。今年の1~3月のアメリカ・カナダのツアーでは、彼が大太鼓をつとめました。大太鼓は、鼓童の舞台を代表する演目ですので、これからいろいろな意味で、次代を担う人物だと思っています。

…………震災の影響は佐渡はなかったんですか?

後藤さん:公演ツアーに出ていたメンバーはアメリカで公演中でした。おかげさまで、佐渡には直接の被害はありませんでした。離島なので計画停電も無かったですし。もちろん節電はしていますけれども…。ただ、こうして公演で全国をまわっているので、地震の影響で公演ができなくなった地域もありますし、お世話になった方々が被災されたりしていますので、切ない気持ちでおります。なにより、人の気持ちが「公演に行きましょうよ」という明るい気持ちにならないのが一番つらいですね。被災地のみなさんはもとより、気持ちの部分が戻って、みなさんに公演に出かけてもらえたら…。それが私たちの仕事ですので。今年は30周年で各地をまわって行きますので、全国のみなさんに、元気や勇気を届けたいなと思います。

…………お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

公演を見て圧倒されたのは、健太さんが演奏中に放っている芸能者としての華です。撥が描く曲線のリズミカルな美しさは、不思議な感覚を呼び起こします。躍動する肉体の美しさは、さながら野生動物のよう。放たれるエネルギーは、それ自体が生き物のようにも見えます。極限までにストイックでありながら、完全に開放された状態…とでもいうのでしょうか。「これは凄いものを見た!」と鳥肌が立ちました。

インタビューの中で「太鼓の魅力は、何も考えずに思い切りたたけること」といった言葉が、とても印象に残りました。私のような凡人には、無心になるなんて、とてつもなく難しいことです。けれど実際に舞台の上で、無心でたたかれている太鼓を見ていると、自分も一瞬無心になったような気がしました。現在のような先の見えない不安な日々の中で、ふと無心になる瞬間があることには、とても意味があるように思います。今この時だからこそ、鼓童の演奏を生で聞く機会があれば、是非見に行かれることをお勧めします。言葉を超越した感動は、一期一会です。(取材:さっさ)

【お知らせ】

結成30周年を記念して、鼓童の本が出版されます。健太さんのコメントも載っているそうです。

鼓童結成30周年記念出版
「いのちもやして、たたけよ。- 鼓童30年の軌跡 -」

御坂の思い出、太鼓に込めて

 

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