ジル・ミリエール トロンボーン講習会&演奏会

2011年3月5日、笛吹市スコレーセンターで、世界を代表するトロンボーン奏者ジル・ミリエールさんによる講習会が行われました。翌6日には、演奏会が行われ、会場に駆けつけたトロンボーンファンを魅了しました。

受講者の楽器をチェックするミリエール先生

3月5日 トロンボーン講習会

この日、ジル・ミリエールさんのトロンボーン講習会を受けるために、県内外から50名近い人々がスコレーセンターに集まりました。約50本のトロンボーンが一堂に会している光景は、なかなか壮観です。楽器を始めて間もない中学生から、ブラスバンドやオーケストラで活躍しているプロの演奏家まで、受講者の年齢、経歴は様々です。午後の光が差し込む美しい集会室で、約3時間のレッスンが行われました。

約50名の受講者が集まりました

ジル・ミリエールさんは世界的に有名なトロンボーンの演奏家です。トロンボーンを吹いている人なら誰でも名前を知っているし、録音を聞いたり、映像を見たりした経験があるそうです。そんな世界中にファンのいるミリエール先生が登場すると、会場の熱気が一気に上がりました。穏やかで上品な物腰と、優しく思慮深そうな青い瞳が印象的です。円形に座った受講者の中央にミリエール先生が立ち、レッスンが始まりました。

円の中央で指導するミリエール先生

まず最初にミリエール先生がお手本のフレーズを吹き、それに続いて受講者が同じように吹きます。短い基本的なスケールでも、ミリエール先生の出す音は明るく軽やかで味わいがあって、いつまでも聞いていたいと思います。ミリエール先生は「歌を歌う心が大切。楽器を吹いている時も、頭の中で一緒に歌いなさい」と受講者に教えます。今回、ミリエール先生のフランス語を日本語に通訳して下さったのは、先生の教え子であり、元東京交響楽団の主席奏者で、現在は広島のエリザベト音楽大学の専任講師をされている若狭和良さんです。音の名前はフランスも日本も同じですから「ドミソドソミド~」とミリエール先生が歌えば、受講者もそれに続いて歌います。そして繰り返す時はミリエール先生から「モウイッカ~イ!」とおちゃめな日本語がかかります。

ミリエール先生のフランス語を若狭さん(左)が日本語に通訳

「頭の中で、歌を歌うように…」

レッスン終了後、受講者の方々に感想を伺いました。

「トロンボーンは中学から短大までやっていました。その後ブランクがあって、2~3年前から再開しています。上手になるには、いいイメージをもって練習することが大事だと教えられたし、自分でもそう思います。先生のお手本の直後に、先生の素晴らしい音を記憶したまま吹くという最高の環境でクリニックを受けられたことが良かったです」(社会人、女性)

「トロンボーン歴は17年。一応職業です。今日は若狭さんにご紹介いただいて参加しました。講習会はわかりやすくて、すごく良かったです。先生が一緒に実践してくれる所とか、あと、一人一人をよく観察してチェックをして下さってる所とか、自分たちのレッスンの参考にもなりました」(自衛隊員、男性)

「トロンボーン歴は5年です。吹奏楽部です。やっぱり外国の先生ですし、偉い先生だと聞いていたので緊張していたんですけど、空気も和やかで、すごくいい経験になりました。」(女子高校生)

「トロンボーン歴2年です。吹奏楽部です。ミリエール先生は、高い音とか低い音とか出しているのがすごいと思いました。そして全部の音がきれいでした!」(女子中学生)

「丁寧に和音を作ることが大切です」

レッスンに集中する受講者たち

「モウイッカ~イ!」

講習会終了後に、控え室でミリエール先生にお話を伺うことができました。若狭さんが通訳をして下さいました。まず、今日の講義の感想をお尋ねしました。

「生徒のみなさんには、すごく興味をもって聞いてもらえて、全体的にはコンタクトもうまくとれたのではないかと思います。すごくいい時間が過ごせたと思います」

また、ミリエール先生から見たトロンボーンの魅力をお尋ねしました。

「もちろん音が魅力的だと思うし、グループで吹いてるときのサウンドの感覚がすごく魅力的だと思います。トロンボーンというのは他の楽器と違って、たくさん音が出るわけでもないですし、すごく速いパッセージを吹けるわけでもない。では何かと言うと、音を作るとか、一つの和音をしっかり作っていくということがとても大事なのです。今日やった練習の中でも和音が最後に出てきましたが、やっぱりそういうのを作っていくのが楽しいし、とても重要なことだと思います。今日たくさんいた学生たちにとても重要なのは、そういう和音とか、トロンボーンの心みたいな部分ですね。それをしっかり聞いて勉強していくと、将来的に何をやりたいか、トロンボーンで何を吹きたいかに繋がっていくと思います。まずはその最初の部分、学生たちが和音を使って音を作っていくことが、すごく大事だと思います」

『トロンボーンの心』という言葉、とても素敵ですね。なにか温かいものを感じます。実は今回の取材を、個人的にとても楽しみにしていました。何を隠そうこの私も、学生の頃にトロンボーンを吹いていたことがあるのです。あまり上達もしないまま、いつしか離れてしまいましたが、大人になった今でも、トロンボーンは一番思い入れのある楽器です。一生懸命レッスンを受けている中学生を見ていたら、昔の記憶がよみがえってきました。カッコよくサックスを吹いてみたいと入部した私でしたが、メンバーの足りないトロンボーンを吹くことになりました。自分の楽譜が全音符ばかりなのを見て「トロンボーンは地味だなぁ…」と思っていましたが、パートリーダーの先輩の言葉を聞いて、この楽器を好きになったことを今も覚えています。「トロンボーンはバンドを支える縁の下の力持ちなんだよ。チームワークの楽器なんだよ」。ミリエール先生のお話を聞きながら、トロンボーンはやっぱり素敵な楽器だな…と思いました。

午後の日差しが真鍮の楽器に反射しています

3月6日  トロンボーン演奏会

ミリエール先生のソロ演目。ピアノ伴奏は後藤智美さん

講習会翌日は、ミリエール先生、若狭先生を特別ゲストに招いたトロンボーン演奏会が開催されました。演奏会には、山梨県を拠点に活動している「山梨トロンボーン倶楽部(YTC)」と長野県塩尻市を拠点に活動している「トロンボーンアンサンブル・クリップ(CLIP)」も出演しました。YTCのメンバーは、普段他の吹奏楽やオーケストラでトロンボーンを演奏している方たちです。今回、CLIPはYTCに招かれての出演です。第1部ではYTCとCLIPのバトルもあって、見ごたえがありました。両バンド間で、互いに刺激しあう良い交流が行われているのが伝わってきました。

山梨トロンボーン倶楽部

トロンボーンアンサンブル・クリップとのバトル

第2部ではミリエール先生のソロ演奏、またミリエール先生と若狭先生のデュオ演奏が行われました。ピアノ伴奏は、山梨県内でご活躍されている後藤智美さんです。流石の素晴らしい演奏にうっとりしました。

ミリエール先生&若狭先生の夢のデュオ

ミリエール先生と若狭先生は本当に仲良し

ピアノの後藤さんとも息ピッタリ

YTCの方がステージで披露して下さったお話です。一昨日、フランスから来日されたミリエール先生は、石和温泉に宿泊されたそうです。笛吹市内を移動した時に、晴れた空に浮かび上がる南アルプスを見て、とても感激なさったそうです。YTCの方が先生のトロンボーンの音色を聞いて、「どうしたらそんなにやわらかい音が出るのですか?」とお尋ねしたところ、「ここへ来て、私の音はさらにやわらかくなっているかもしれない。ここは、人々が親切に接してくれて、自然も豊かで、近代的な冷たい建物も少ない。音楽をやるには本当に恵まれた環境だ」とお答えになったそうです。

最後は出演者みんなで演奏

第3部ではミリエール先生、若狭先生とYTCとCLIPのメンバーが共演しました。楽器の本数が増えると、やはり迫力があります。演奏会の最後、アンコールを望む観客の拍手に、ミリエール先生は満面の笑みで「モウイッカ~イ!」と言ってくれました。

とても温かい演奏会でした

輝かしい経歴を持つ偉大な演奏家でありながら、ミリエール先生はとても気さくで優しい方でした。楽器を始めて間もない学生にも本当に熱心に、上達の為の心得を伝えようとしていました。笛吹の豊かな自然を気に入って下さったことも、とても嬉しいです。遠いフランスから笛吹に『トロンボーンの心』が伝えられた2日間でした。(取材:さっさ)

 

ページトップへ

〒406-0834 山梨県笛吹市八代町岡513-5 Tel.055-287-8851 Fax.055-287-8852
Copyright 2009-2012 Fuefuki-syunkan.net. All Rights Reserved.