笛吹人バンザイ

No.4 二階歌劇団

笛吹市御坂町二階地区を本拠地に活動するボランティア歌劇団があります。年齢は30代から70代まで、会社員や農家・自営業など様々な職業のメンバーが集まり、現在の団員数は9名。男性6名、女性3名の構成です。役者5名、歌専門2名、司会専門1名、音響兼役者1名という内訳です。石和町から参加している一人を除き、全員が二階地区の住民です。

師走の風が冷たい午後、歌劇団の団長を務める細田豊さん(75歳)にお話を伺いました。その数日前、御坂町で行われたボランティア公演を見て感動し、ぜひお話が聞きたくなったのです。細田さんはこの歌劇団に限らず、二階地区の花園作り委員会や御坂男性ボランティアなどを立ち上げた方で、市内各地で行われている、やってみるじゃん「ふれあい・いきいきサロン」でもボランティアとして活動しています。歌劇団では脚本・演出・舞台美術・役者と、八面六臂の活躍で劇団をまとめています。

座長あいさつをする細田団長※

歌劇団のホームグラウンド「二階地区公民館」※

歌劇団を始めるきっかけは、地元敬老会の余興を自分たちでやろう!という事からでした。それまで敬老会は、石和の温泉旅館へ出かけるのが慣例でしたが、入浴時に転倒の危険があったり、車での外出はなかなか参加できないお年寄りもいて、役員さんが頭を痛めていました。ちょうど地区の公民館が新築されたのを機に、そこで敬老会を開催して何か楽しい催しを・・・という訳で始まったのがこの歌劇団だったのです。

発足時(2003年)の団員は細田さんと奥様、そして隣人の女性のわずか3人。現在音響を担当しているメンバーも、当初は仕事でお願いしていた人でした(しかしいつの間にか巻き込まれ団員になっていたそうです)。経験の全くない人たちがいきなり劇団を始めるなんて、あまりに無謀な気がしますが、細田団長の胸中には「ある確信」があったといいます。実は、団長の奥様はプロ並みの歌唱力をもった方です。奥様のお供で色んな発表会へ足を運んでいた細田団長は、特に日本舞踊の発表会を見るうち、自分にもできそうだと思ったそうです。どんな根拠でそんな確信が持てるのか・・・(たぶん団長のポジティブな人生観にあるのかもしれません)。とにかく地域のお年寄りを喜ばせたい一心で、敬老会の初舞台を踏んだわけです。結果は大成功!石和温泉への遠出には参加をためらっていた人も、近所の公民館ならと参加者が増え、歌や踊りのステージをとても喜んでくれたそうです。ちなみに、二階区敬老会で出されるごちそうは、そのほとんどを地域の役員さんが手作りしています。舞台を楽しみながら心づくしのお料理をいただく、暖かい心のこもった催しになっています。

初舞台の様子。八木節を歌う団長と奥には音響さん(入団前)が見えます

初舞台が好評だった事もあり、毎年続けようと思っていたのですが、さすがに団員3名では難しいものがありました。そこで親しい人から声をかけ、団員をスカウトしていったそうです。「毎日見ていると(人となりが)何となくわかる。声をかけると、じゃあちょっとやってみるかで始まる」と言う細田団長。人口の少ない地域でそんな豊かな人材に恵まれているのもすごい事ですが、きっと二階歌劇団には参加しやすい、楽しい雰囲気があるのでしょう。団員に共通する「人を楽しませたい、喜ばせたい」という気持ち。その共通の思いで結ばれているからこそ、話も早いのではないでしょうか。いつの間にか団長自身が敬老会に招待される世代となり、ご自分の年齢も考えて「後に続く人を増やしたい」と言います。来年は新たに2名の入団が決まっているそうで、益々歌劇団の活躍が期待されます。

妻(歌)と夫(踊り)の「アンコ椿は恋の花」

設立時からのメンバー演じる「お富さん」

音響さんが歌う「柿の木坂の家」

ド派手衣装の尾崎紀世彦「また逢う日まで」

キリリと舞う「黒田節」

日本一の楽しい司会さん

若さあふれる「きよしのズンドコ節」

手旗信号付きで歌う「月月火水木金金」※

二階歌劇団の公演は、音楽に合わせて歌や踊り・お芝居をする「歌謡芝居」が基本です。ほぼ全ての演目を考え、演出・舞台作りを担っている細田団長に、その創作過程をお聞きしました。

まず音楽を決め、そこから衣装や背景をどんなものにするか、役者をどう使おうか考えるそうです。少ないメンバーで舞台を回していくためには、プログラム全体を考え、役者の動きや準備にかかる時間を計算する必要があります。芝居の間に歌やおしゃべりを入れて展開するのは、舞台を飽きさせないだけでなく、次の場面へのつなぎの意味もあるのです。二階歌劇団には司会専門のメンバーがいて、軽妙な話術で観客をひきつけてくれます。

驚くことに、歌劇団の練習は公演直前に一回、多くて二回だそうです。その際に団員同士で細部を打ち合わせ、色々と意見を出し合って作り上げていきます。セリフは直前に一生懸命覚えるも、アドリブが多いとの事。本番中は合図を出してお芝居の息を合わせる等、練習時間が無いなりの工夫をしているそうです。

立ち回りも息を合わせて「一本刀土俵入」

「気まぐれ道中」の歌謡タイム

デュエット「おすしでルンバ」※

樽の太鼓にスコップの三味線で「八木節」

舞台美術である背景画についても、こだわりをもって制作しているそうです。モチーフは浮世絵から名所絵・マンガ風の絵柄まで実に様々ですが、細田団長は、「観客の目を惹きつける、舞台映えする絵を描きたい」と言います。確かに浮世絵やマンガのデフォルメされた線や鮮やかな色調は、ステージの上で素晴らしく見栄えがします。それら背景や照明が役者を引き立て、そこに確かな「異空間」を生み出しています。

舞台の大道具から小道具に至るまで、自宅で一人コツコツ制作するという団長が参考にするのは、前述の日舞の発表会。指の動きや衣装の細部まで、双眼鏡持参でじっくり観察するそうです。その他、テレビの時代劇なども大変参考になるという事でした。

背景画は北斎の冨嶽三十六景「箱根湖水」※

背景を何枚も使用できるようセットする手づくり装置※

おんぶされているように見える人形

松ぼっくりのイクラや発泡スチロール製のお寿司※

今年は敬老会や地域のお祭りでの公演の他、デイサービスや笛吹市社会福祉協議会のイベントで公演する機会も増えました。劇団運営はボランティアなのでもちろん赤字ですが、「いいじゃん、楽しみでやっているし趣味のようなもん」と笑顔の細田団長。何に一番お金がかかるか尋ねると、「カツラや衣装」だそうです。衣装はなるべく安い中古の着物を買うそうで、どれくらい安いかと言うと、300円~500円、高くて800円くらいだそう。そんな安いお店があるんですか!と突っこむと、「石和あたりのお店にいけばあるよ」との事です。でもいいものはなかなかない(てか、その値段でいいものを求める方が間違っているような・・・)ので、今度みんなで浅草まで買い出しに行くそうです。いや~、楽しい劇団ですね!ちなみに細田団長は、前述の参考にさせてもらっている日舞の方々から、化粧品や扇子などのお古をいただいたそうです。節約と工夫、そして太っ腹な友人(?)は赤字劇団の大きな支えとなっているようです。

お化粧やカツラは芝居に欠かせない重要なアイテム※

様々な衣装は通販やいただき物も多いそうです

女性団員による手作り着ぐるみや着物もあります

結成から8年が過ぎ、歌劇団のレパートリーは50~60本にもなりました。お客さんにウケる演目はなんですかと尋ねると、「俺の女形かなあ~」。私も先日、実際に目の当たりに拝見したのですが、確かに大受けでした(笑)。殿様キングスの「なみだの操」に合わせ、お化粧した着物姿の団長が客席を踊りながら回ると、会場から大きな歓声が湧きます。他にも「アンコ椿は恋の花」バージョンもあるそうで、島娘に扮した団長の可憐な姿が大受けするそうです。では、失敗作は?と尋ねると、たった一言「ない」。きっぱりと言い切るところがカッコ良すぎます(笑)。ひとつがうまくいかなくても、別のもので笑いをとればいいというのが基本的な考え。お芝居がだめなら衣装やお化粧で、あるいは歌で楽しませたらいいという訳です。なるほど!このポジティブ思考は本当に素晴らしいし、団員の皆さんが楽しくのびのび続けられる理由だと思います。

これからやってみたいものや題材はありますかという問いには、「新妻鏡」や「旅の夜風」の歌謡芝居をやりたいとの事。お年寄りがよく口ずさむ曲で、この歌を懐かしむ人も多いそうです。「歌は世につれ世は歌につれ」と言いますが、歌にはそれを聞いていた時代の思い出もたくさん詰まっています。お年寄り一人ひとりがそれぞれの思い出を胸に、その歌を口ずさむのでしょう。お客さんからこれをやってというようなリクエストはないそうですが、観客の反応を見て感じ取ることが大切だと細田団長は言います。その姿勢は一流のエンターティナーとなんら変わらないものです。

番場の忠太郎が母の前で名乗りを上げる「瞼の母」場面※

立ち回りも真剣!「箱根八里の半次郎」

かいまき毛布をまとって「一本刀土俵入」駒形茂兵衛

「アンコ椿は恋の花」の可憐な島娘

オヨネーズ「元気っていいな」

「マツケンサンバ」でにぎやかに盛り上げるフィナーレ

笛吹市でも高齢化の波は急速に押し寄せていますが、二階歌劇団を見ていると、未来への展望をもてる気がします。歌劇団の公演を見て楽しむお年寄りと団員に差はありません。誰もがいきいきと毎日を楽しく元気に過ごしたいのです。お年寄りは見て楽しみ、団員は演じて楽しんでいます。相互にお互いが支えあう、見事な関係が生まれています。歌劇団は地域を楽しくしたい、地域を活性化させたいと考えています。そのために何をするか?お年寄りを喜ばせる事、若い人を仲間に取り込む事、そうする事で人のつながりが深まり、楽しい地域になるのではと言います。昨年、二階地区は歌劇団の舞台道具を収納する倉庫を作ってくれたそうです。歌劇団が二階地区の財産として認めてもらえている証ではないでしょうか。地域に劇団がある所はそう多くないでしょう。気軽に楽しみながら社会参加ができるシステム、素晴らしい財産をもった二階地区をとても羨ましく思います。

二階歌劇団は主に御坂町内で活動していますが、要請があればどこでも公演するそうです。ただし平日昼間は会社勤めの団員が多いため、なかなか難しいのが実情です。一ヶ月以上余裕をもって連絡をもらえれば、スケジュール調整が可能な場合もあるので、うちの地域のお祭りに来て欲しいとか、イベントの出し物がなくて悩んでいるという方は、ぜひ二階歌劇団までお問い合わせください。きっと劇団員が知恵をしぼって、楽しいステージを作ってくれると思います。(取材:ちゃめ/2011.12)

一人ひとりと握手するウサギ

お客さんとふれあいながら、和やかな雰囲気※

客席でのワンシーン。いい笑顔です※

今後の公演予定

2012年4月/二階区敬老会(招待者のみ) 
2012年8月/御坂町八千蔵石尊祭

公演のお問い合わせ先

細田団長宅(Tel.055-263-0629)

キャプションに※がついている写真以外は、二階歌劇団より過去の公演写真をお借りしました

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