一宮で神様巡りトレッキング

中央道釈迦堂パーキングエリアからほど近く、桃の花の季節には眼下一面にピンクのパノラマが広がる一宮の山々ですが、秋には趣が変わって静かな山歩きが楽しめます。紅葉はもちろん、大文字焼きの大久保山をはじめ神様に縁のある場所が多いので、自分ならではのパワースポットを見つけ、身をゆだねてみるのはいかがでしょう。

取材日:2010年11月18日

一宮ふれあい文化館前より撮影


より大きな地図で 蜂城山~神領山~大久保山~山宮神社 を表示

蜂城山(はちじょうやま)登山口は県道34号から要所々々に案内板が出ていてとても分かりやすい場所にあります。「蜂城山天神社参道」の石碑から一歩踏み出せば、登山道のみならず天神様の細道だとの思いに身も心も引き締まります。すぐに金属製の柵に行く手を阻まれますが、これは畑を荒らすイノシシ等が山から里へ降りるのを防ぐのが目的のもの。入山者は自分で開け、通った後はしっかりと閉め、留金をきちんと掛けましょう。

天神社参道の碑が登山口の目印

害獣対策の柵

しばらく九十九折が続きます、折り返しが80あることから蜂城の名が起こったとの説もあります。蜂城山は15世紀に武田氏の親族岩崎氏の城郭があり、後に同族の栗原氏が使用したといわれています。確かに後ろに深い山を背負ったこの場所は守るに易く攻めるに難し、山城の条件を備えています。そんな武田信玄のお祖父さんの時代に思いを馳せながら登って行きます。時折現れる灯ろうが天神様の参道であることを思い出させ、足元の野菊やコウヤボウキの白くか細い花が疲れを和らげてくれました。

灯ろうに野菊

コウヤボウキに紅葉

中腹やや過ぎ標高670メートル付近、参道から左に分岐がありその先に有名なヤマボウシの木があります。
市の天然記念物でヤマボウシとしては珍しい大きさ。根回りは約1.5メートル。花の時期には白く咲き誇る姿が麓からも確認できるそうです。今回は里を見下ろすその姿を眺め春を想像するしかありませんが、是非その頃に再び訪れたいものです。

ヤマボウシに会うには少し寄り道

街を見下ろす天然記念物

参道に戻って標高700メートルあたり、この辺から紅葉も本格化してきました。急坂を曲がって顔を上げると突如石の鳥居が現れます。頂上かと思いきやさにあらず、一の鳥居のようです。ここからは笛吹市をはじめ甲府盆地を一望できます。この日は晴天でしたがこの時期としては暖かく、ぼんやりと霞んでいてちょっと残念でした。

一足ごとに紅葉が進んでいきます

一の鳥居。どうやってここまで運んだんだろう?

笛吹市を一望

先ほどの鳥居から更に10分程登ると石段と二の鳥居、その奥に紅いお社が見えました。蜂城天神社です。
標高738メートルの山頂に建てられた神社の、御祭神はもちろん菅原道真公です。毎年8月の終わりの祭祀には、学問の神にふさわしく地元の子供たちの書が奉納され賑わうらしいのですが、今は静寂に包まれ、境内一面黄金色の散葉が秋の陽に輝くばかりです。それにしても何故こんな場所に天神様を祀ったのでしょうか。これは私の拙い想像ですが、地形的に盆地にむかって突き出したこの地に古来雨乞いなどの祭祀場があり、それが雷使いの天神様と結びついたのではないでしょか。丸太のベンチで一息つきながらそんな想像に浸っていると、秋風が吹き抜けて遠くの喧騒を微かに運んで来ました。

秋の陽だまりに佇むお社

狛犬が独特の表情で・・・

盆地に睨みをきかせている

鳥居越しに見る風景は清々しさを感じます

ここから神領山へは、天神社の横をすり抜けて一旦下ります。このあたり城の遺構が多く残っているとの事ですが、素人目には残念ながらよく解りませんでした。降り始め20メートル程は少し急ですが、後は比較的緩やかな尾根伝いの道が続きます。稜線には見事なアカマツが多く、緑と紅葉のコントラストが何とも言えぬ絶妙のバランス。折り重なり頭上を覆う赤・紅・茶・黄色と何種もの緑、更に空の青。錦織りなすとはこのことかと思いました。南斜面で風もなく11月も中頃なのに暖かさすら感じました。

赤松が見事な曲線を描いて伸びる

赤も色々、黄色も色々

近くに遠くに、濃いも薄いも数ある中に

やがて茶臼山方面と山宮神社へ降る道の分岐を過ぎると、ここから再び登りになります。檜の植林が右から寄り添って来ると針葉単一林独特の静けさを感じますが、道を挟んで南側は紅葉が続き、その対比も妙といった趣です。シジュウカラやヤマガラ、エナガなど野鳥の声も始終聴こえて、快適な尾根歩きが続きます。やがて道が檜の中に分け入ると、気温が下がった感覚があり、勾配もややきつくなってきました。足も重く感じだしたその時、ふいに不思議な形に枝を広げたアカマツが出現!いったい何時からここに立ち何者がこの形を作ったのかと、しばし考えに耽ってしまいました。その間にすっかり体力は回復。宇宙のパワー?!をいただき元気を取り戻しました。

滝戸山標高マップ

突如出現?!宇宙怪獣か?!

ルートから少し寄り道をする形で、神領山の頂上に向かいます。分岐を案内するかのように散敷かれた黄葉の小径を行けば、ほどなく神領山頂上へ到着。そこには「神領山866メートル」とだけ書かれた札と恩賜林であることを示す石柱があるだけでした。少し拍子抜けですが、ここが本日のコースで一番標高の高い場所です。切株に座り予定通りここで昼食とします。微かに京戸川方面に眺望はあるものの風の音以外何も聞こえません。コンビニで買ってきたおにぎりを食べ、ゴミは再びデイパックへ入れてルートに戻ります。

黄色い絨毯。山頂はすぐそこ

小さくとも健気に燃える

足元に視線を移せば今年芽を出したようなこんな小さな木でさえ健気に染まってみせているじゃありませんか。顔をあげれば丁度目の高さに、わずかに残る赤い実。もう冬が近いことを知らせるランプのようですね。

滝戸山標高マップ

オトコヨウゾメ(スイカズラ科)?

見るもの全てが一色に染まる紅葉も素敵ですが、上下左右に赤黄緑が入り交じるのも好ましいですね。ここでも松・檜の緑と黄葉、紅葉のコントラストが目に愉しく、視線をどこに向けたらいいか考えながら歩きました。さすがに秋は日の傾くのが早く、午後になって雲が出て時折冷たい風も吹いてきました。けれども、ハラハラと葉が舞い落ちる様にはつい立ち止まり、一頻り散り終わるまで冷たさも忘れずっと眺めてしまいます。

滝戸山標高マップ

檜と松がアクセント

特にきつい傾斜もなく大久保山山頂に到着。ここも「大久保山664.4メートル」と書かれた札が松の幹に縛られているばかり。しかし、手元の地図には那賀都神社の文字があります。どうやら木立の向こうに道が続いているようす、廻り込んでみるとそこにはお社と、天に両の手を広げたような古巨木があったのです。

滝戸山標高マップ

荒涼とするもどこか威厳が残る佇まい

滝戸山標高マップ

寝回り約5メートル死して風格失わず

那賀都神社は後日調べたところ、比較的新しい時代(江戸末期から明治)の創建でした。巨大な御神木のアカマツは山梨県指定の天然記念物だったのですが、今では残念ながら枯死しています。それでも街を見下ろしているその姿は充分に神木らしい風格を保っていました。

水源地は神聖な場所なのです

堰堤を過ぎれば山宮神社は間近

ここからは山宮神社に向かい、チョット判りにくい下りの道となります。ピンクの道標が所々木に結んでありますので、それさえ見失わなければ大丈夫でしょう。最後は渓流沿いに降りていくことになりますので、山歩きの基本ですが天候の変化には気をつけたいところです。水源地を守って下さっているのでしょうか、樹の洞に石の神様がいらっしゃいました。ふかふかの落葉に足を取られつつも砂防堰堤の脇を通り抜ければ、そこはゴールの山宮神社です。

滝戸山標高マップ

市天然記念物の堂々たる夫婦杉

山宮神社は、甲斐の一の宮浅間神社が創建された場所。一宮浅間神社史によれば約2000年前に神山の麓に勧請されたとあります。やっぱり今日歩いて来た山々は神域だったのだと納得がいきました。のちに木花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメノミコト・富士山のご祭神)を今の浅間神社に移され現在の形態になったということです。本殿は武田信玄の再建と伝えられる国重要文化財です。
そしてここにも巨木の御神木、夫婦杉がありました。この夫婦杉は文字通り二本の杉が一緒になったもので、目の高さで測った1本の幹周は5.3メートルと5メートル、高さ37メートル、樹齢は推定300年とのことです。余談ですが、木花咲耶姫命が現在の浅間社へ移られた後、残されたのは父君大山祇神(オオヤマヅミノカミ)と旦那さん瓊々杵尊(ニニギノミコト)、なのに御神木が夫婦杉っていうのも不思議ですね。
最後の最後に見事な御神木に迎えられ疲れも消え去って清々しい山行の結びとなりました。
今回紹介したこのルート、健脚自慢の方は通して歩くのもいいですし、体力に自信の無い方でも蜂城山の往復や、山宮神社のご参拝だけで充分に神山のエネルギーを頂戴できると思います。
紅葉の時期のみならず、新緑の頃、花の季節など何回でも歩いてみたい。そんな思いに駆られるコースでした。(取材:三言居士 )

国指定重要文化財:春日造檜皮葺の本殿

山宮神社鳥居は神域の出口

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