笛吹人バンザイ

No.3 風間繁樹さん

笛吹市一宮町にある「いちのみや桃の里ふれあい文化館」の創作活動室。ここで毎月1回開かれている絵画グループ「菜の花会」の絵画教室に講師として招かれ指導しているのが、今回ご紹介する風間繁樹さんです。時折笑い声が響くその一室をのぞいてみると、生徒さんの間を絵筆を持って指導に回る風間さんの姿がありました。「素敵な表現ですね」「その色使いも面白いですね」と柔和な表情で生徒さん一人一人に優しく声をかける風間さん。そんな現在の姿からはとても想像できませんが、実は一年ほど前までは山梨県警の警部補でした。元警察官の風間さんがなぜ今「絵の先生」として地域の人たちに絵を教えているのか?その経緯をここで簡単に経歴を辿りながらご紹介しましょう。

風間繁樹さん

メンバー全員が笛吹市民の「菜の花会」

1948年に石和町で生まれた風間さん。絵画に本格的に取り組んだのは中学3年生の時。もともと絵を描くことが好きだった風間さんに父親が油絵の画材道具一式を誕生日にプレゼントしてくれたのがきっかけでした。その後、画家を志し、美術大学を目指した時期もありましたが、一家の長男として堅実な仕事に就くことを望む周囲の期待などもあり夢を封印。さらに家族らの勧めもあって警察官の道を歩むことになりました。それでも仕事の傍ら好きな絵だけは描き続け、公募展にも精力的に作品を出品し数々の賞に輝きました。そうしてそんな絵画の実力がやがて署内でも認められ、1995年に県警初の似顔絵捜査員に任命されたのです。

2009年やまなし県民文化祭優秀賞「彩 座像」

似顔絵捜査員時代の自画像

その後、2009年3月に定年退職するまで、約14年にわたり鑑識課の似顔絵捜査員として活躍されました。捜査員時代に描いた似顔絵は500点以上にものぼり、似顔絵から容疑者を割り出し、犯人逮捕へと結びついたケースも数多くあったそうです。また、同時に似顔絵技能指導官として後継者の育成にも力を注いできました。そして「退職後は1人で絵に没頭するより、人のために描きたかった」という想いから同年4月より絵画教室の講師として活動をスタート。絵の腕前と指導者の経験を活かして、現在、月に5ヶ所ほど県内各地を廻って絵画を指導されています。

「親子が一緒に同じ視点で絵を描くことが大事」と風間さんは言います

教室では絵手紙や似顔絵など毎回様々なテー マで授業が展開されます。絵筆の代わりに敢えて描きにくい割り箸を使ったり、段ボールやアクリル板に描いたりと、毎回興味深い内容で絵を描く楽しさを教えています。もちろん描き方のテクニックも教えますが、風間さんが指導する際に最も大切にしていることは、「創作意欲を引き出すこと」だと言います。そのため生徒一人一人をしっかりと見つめ、良い所を見つけてほめることに重点を置いています。石和町で開かれている親子を対象にした絵画教室を訪ねてみると…。「先生、見てー」と自分が描いた絵を差し出す子どもたちの誰もがいきいきと自信に満ちた表情をしています。「それぞれの良さを見つけてあげて、ほめて、やる気を起こさせる、それが上達につながる」と言います。

風間さんの優しく大らかな人柄がそのまま絵に表れている絵手紙の数々

こうした絵画教室の講師として地域の人たちに絵を指導する一方で、風間さんは臨床美術の分野にも積極的に取り組んでいます。臨床美術とは、絵や立体の創作を通じ、高齢者の認知症の予防や子どもの感性教育、また発達が気になる子どもへのケアに役立てるもので、現在では医療や福祉の場だけでなく、総合的な学習の授業など多方面で取り入れられ、一般の人にも広がりを見せています。

昨年、風間さんはこの臨床美術士の資格を取得。県内各地の施設に出向き、創作の魅力を教えながら高齢者の心のケアに取り組んでいます。この資格を取るために、なんと退職した翌日から毎週、週1回のペースで東京の教室に通われたそうです。定年後は悠々自適の生活が待っていた風間さんですが、何がそんな熱い行動に駆り立てたのか?それは、「認知症を患っていた自分の父親の介護を経験して臨床美術の重要性を認識し、一人でも多くの患者さんの力になりたかった」という、そんな想いがあったからです。その父親も症状が進み、臨床美術のノウハウを活かすことなく昨年7月にこの世を去られました。「臨床美術は高齢社会に必要不可欠な分野です。父親にできなかったぶん地域のお年寄りに少しでも孝行したい」と風間さんは言います。

天気の良いオフの日には、かつて父親が買ってくれた桜の木のイーゼルを抱え写生に出掛けるという風間さん。
今も大事に使い続けている「父親からの贈り物」とともに。一宮町坪井の自宅にて

定年後に迎える第二の人生。そこからの選択肢は人それぞれに様々あると思います。その岐路で風間さんは、得意分野を活かしながら地域に生きることを選ばれました。これまでに培った知識やノウハウを活かすだけでなく、そこで新たな人間関係をつくり出し、その人たちを元気にするために自分自身もまたあらためて勉強し直す。風間さんが目指す「好きな道を究めながら地域とのつながりを深めていく」という生き方。それこそ、第二の人生というにふさわしい生き方なのではないでしょうか。(取材:しんたま)

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